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週刊文春 vs. 田中眞紀子元外務大臣長女

建設日:2004/03/22
更新日:2004/10/20

 事件のあらまし

 経過

週刊文春が田中真紀子(元外務大臣)氏の長女の私生活を暴露する記事(およそ3ページ)を掲載しようとし,田中氏側が出版差し止めの仮処分を求めた。東京地裁は仮処分を認める決定。 週刊文春側が抗告し,東京高裁で逆転。

 争点

争点の第1は,週刊文春の「表現の自由(憲法21条)」と田中氏長女の「プライバシー権(憲法13条)」のどちらを優先させるか,ですね。

プライバシー権は憲法上の明文はありませんが,現在では争いなく憲法13条によって保障されていると考えられています。今回はともに憲法上で保障される人権の衝突場面です。

ただ,政治家や芸能人など「正当な理由で公の関心となった人」というのはプライバシーに関わる部分でも暴露されても仕方なし,というのがマスメディアの主張です。

しかし,今回は田中氏という超有名人の長女。母親が超有名人であろうが,長女は私人だからプライバシー権は保障されてしかるべき,というのが田中氏側の主張。政治家の娘はゆくゆくは跡継ぎとして立候補の可能性があるから公人だ,というのが週刊文春側の主張のようです。この長女は公人か私人か,というのが争点の第2です。

第3に,出版禁止の仮処分という事前抑制は認められるか,が問題となっています。出版禁止は,世の中の人の目に一切触れないようにするという重大な処分ですから,出版後の損害賠償よりもはるかに重い処分ですし,ほんの3ページを出版禁止にすることによって,事実上雑誌1冊がまるまる出版禁止になってしまいます。

 私の考え

 事件への感想

いくつかのテレビ報道を見ていて思ったのですが,やっぱりマスメディアは同業の肩を持っていますよね。「出版差し止めは検閲だ」と言ってみたり,「プライバシー権よりも表現の自由のほうが重要だ」と言ってみたり。

検閲は行政権が主体であるから,司法権の行う出版差し止めは検閲でないことは明らかです。

プライバシー権より表現の自由のほうが優越する根拠もわかりません。

まあ,かつてメディア規制3法が国会で審議されたとき,他の重要法案そっちのけでメディア規制法案の批判報道ばかりしていたことを考えてみても,マスメディアが中立だなんていうのは,嘘だと思いますけど。

 争点の私見

細かいことは各種の評論等を読んでいただければいいので,細かいことは書きません。

第1の争点は,どちらも重要だから等価的利益衡量(比べっこ)によるしかないと思いますし,第2の争点は,有名人の家族であろうとも,当然に私人だと思います。有名人の家族が公人だというのなら,なぜ今まで芸能人の家族(子どもとか)はモザイク処理されて報道されてきたのでしょう。有名人の家族は私人だと自認してきたではないですか。

将来公職に立候補するかも,という理由で公人扱いされても困ります。そんなのは立候補したときに書いてください。現時点では,あくまでも私人のはずです。

第3の争点について,どっかで読んだ指摘でしたが,的を射ているなと思ったのがありました。

いわく,「名誉毀損の場合は損害賠償や謝罪広告によって回復できる余地があるが,プライバシー侵害の場合はいったん侵害されると回復が非常に困難」と。

プライバシー侵害の場合,内容が真実だと虚偽のときよりも一層侵害が大きくなる,という点も名誉毀損と違う点です。

 感想の続き

近頃はマスメディアの過熱報道に対して,抑制しようとする動きがいろいろありますね。

政府・与党はメディア規制法案を作ろうとしました。まあ,政治家は週刊誌等によってしょっちゅう叩かれていますから,何とかして過剰報道を抑えたいと躍起になるのも無理ないですね。(笑)

裁判でも出版社に対して1,000万円を超える損害賠償金を命じる判決も出ているそうです。

一方でメディア側は,メディアの自浄作用に任せるべき,と主張しています。BPO(放送倫理機構)とかいう団体もありますよね。自浄作用なんて,どう期待できるのか,不明ですけど。

それにしても,マスメディアの格好の餌食になるような下半身と金に汚い政治家(自民党前副総裁とか)も大いに問題だと思います。

 事件は高裁へ

 1週間後 (3月25日追加)

事件から1週間,高裁での審尋が始まっています。主な争点は「長女は純然たる私人か」に絞られているようです。文春側は長女が公人として行動している証拠を提出した模様です。

公人か私人か。ここが判断の分かれ目でしょう。細かいところは私は読んでいない(読む気もない)ので分かりませんが。

週刊文春の問題号の次号では立花隆氏の「出版禁止はテロ行為である」といった論説が掲載され,40ページの特集になっているそうです。何でもかんでも「テロ」と呼ぶ近頃の世の風潮にはやや辟易してしまいます。

 その後 (8月12日追加)

結局,東京高裁で逆転(3月31日)し,確定しました。その後の動きはフォローしていませんが,田中氏側は損害賠償請求訴訟を起こすのでしょう。

なお,高裁の決定要旨は以下。(要約は筆者自身の手によります)

記事の内容が,政治とは何らの関係もない全くの私事であることも考えると,公共の利害に関する事項に係るものと解することはできない。
長女を後継者視して,長女の私事を公共の利害に関する事項に係るものとみるのは相当とはいえない。
記事は,身内に著名な政治家がいるとはいえ,現時点では一私人に過ぎない長女らの全くの私事を内容とするものであり,専ら公益を図る目的のものでないことが明白である。
記事の内容及び表現方法は,長女らの人格に対する非難といったマイナス評価を伴ったものとまではいえない。
表現の自由は,受け手の側がその表現を受ける自由をも含む。
表現の自由は,憲法上最も尊重されなければならない権利である。出版物の事前差し止めは,表現の自由に対する重大な制約であり,これを認めるには慎重な上にも慎重な対応が要求されるべきである。
このように考えると,記事は長女らのプライバシー権を侵害するが,当該プライバシーの内容・程度にかんがみると,事前差し止めを認めなければならないほどではない。
以上から,長女らの主張する事前差し止め請求権は,これを認めることができない。

争点第2は「私人である」との判断。争点第1は比較衡量論でしょうか。「慎重な上にも慎重な対応を要求」した上で,事前差し止めは否定しました(争点第3)。

プライバシーの内容・程度を見て判断したのは妥当だと思います。私は本件記事の内容を読んでいないので判断できませんが,「ジャニーズおっかけマップ・スペシャル」事件(SMAPメンバー等の個人住所を掲載した本を出版しようとした)で仮差し止めが認められたことと比べると,プライバシーの内容・程度の要保護性が低かったのかも知れません。

今回の「仮の救済」論は憲法学としておもしろいところですね。私ももっと勉強して深めてみます。

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