刑法厳罰化と強姦殺人の処断刑建設日:2004/11/18更新日:2004/11/28■ 刑法平成16年改正平成16年秋の臨時国会で刑法が改正されます。改正理由は法務省の提案理由によると,「凶悪犯罪を中心とする重大犯罪に関する最近の情勢等にかんがみ、これらの犯罪に適正に対処するため、有期刑の上限並びにこれらの犯罪に係る法定刑等及び公訴時効の期間を改める必要がある」とのことです。 本稿では,改正によって刑法の解釈上の議論にどのような影響を与えるか,そのうちのひとつを取り上げます。 ■ これまでの議論▼ 問題の所在これまで,強姦に伴って,女性がもし抵抗したら傷害(ないしは殺害)しても姦淫の目的を遂げようと思い,そのとおり実行した場合について,処断刑についての解釈上の争いがありました。 なぜ,そのような論点が出るのか,その背景には法定刑の問題があります。 |
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改正前の法定刑176条(強制わいせつ):6月以上7年以下の懲役 177条(強姦):2年以上(15年以下)の懲役 178条前段(準強制わいせつ):6月以上7年以下の懲役 178条後段(準強姦):2年以上(15年以下)の懲役 181条(強制わいせつ致死傷,準強制わいせつ致死傷,強姦致死傷,準強姦致死傷): 199条(殺人):3年以上(15年以下)の懲役,若しくは無期懲役,又は死刑 204条(傷害):30万円以下の罰金若しくは科料,又は(1月以上)10年以下の懲役 |
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例えば,殺人の故意を持って強姦した場合,強姦致死傷罪一罪が成立する(181条には故意ある場合も含む説)とすると,普通殺人では死刑が選択できるのに,強姦殺人では無期懲役が選択できないという不都合が発生します。 では,強姦罪と殺人罪の観念的競合(181条には故意ある場合を含まない説。大塚説)とすればいいのでしょうか。 しかし,例えば,傷害の故意を持って強姦した場合には傷害罪と強姦罪の観念的競合により2年以上15年以下の懲役なのに,傷害の故意がなく強姦して傷害の結果を発生させた場合には強姦致傷罪一罪が成立し,3年以上15年以下の懲役,又は無期懲役となるという不都合が生じます。
▼ 判例・学説そこで,判例・学説は次のように解釈し,このようなアンバランスを乗り越えようとしてきました。
これらの場合には先に述べたアンバランスは生じません。しかし,以下のように批判されます。 (1)致傷の場合と致死の場合で別異に取り扱うのは,行き過ぎた実質的解釈である。 (2)人の死亡という一個の事実を二重に評価することになる。 司法試験受験界では判例か前田・大谷説に人気があるようです。ただし,処断刑の結論は同じになります。下図参照。
■ 改正後の状況では,刑法が改正されることによって,どうなるでしょうか。 |
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改正後の法定刑(下線は改正箇所)176条(強制わいせつ):6月以上10年以下の懲役 177条(強姦):3年以上(20年以下)の懲役 178条1項(準強制わいせつ):6月以上10年以下の懲役 178条2項(準強姦):3年以上(20年以下)の懲役 178条の2(集団強姦,集団準強姦):4年以上(20年以下)の懲役 181条1項(強制わいせつ致死傷,準強制わいせつ致死傷): 181条2項(強姦致死傷,準強姦致死傷): 181条3項(集団強姦致死傷,集団準強姦致死傷): 199条(殺人):5年以上(20年以下)の懲役,若しくは無期懲役,又は死刑 204条(傷害):50万円以下の罰金,又は(1月以上)15年以下の懲役 |
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改正によって,アンバランスは解消されたのでしょうか。以下のとおり,全く解消されていません。
▼ 判例・学説の検討改正前は,団藤説でも,判例の立場でも,前田・大谷説でも,処断刑の結論は同じでした。ところが,改正後には違いが出ます。
表内の赤字部分に注目してください。お分かりでしょうか。 前田・大谷説では,殺意ある集団強姦殺人では集団強姦罪と殺人罪の観念的競合が成立する(死刑,又は無期,若しくは5年以上20年以下の懲役)ので,殺意のない集団強姦致死の場合(無期,又は6年以上20年以下の懲役)よりも 処断刑の下限が軽くなってしまう,という不都合が生じるのです。 判例や団藤説では,このような不都合は生じません。とすると,今後は,判例の立場が支持を集めてゆくことになるのでしょうか。 |
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