MH.net

 

MH.net北大法科大学院紹介

建設日:2005/08/06
更新日:2005/10/15

 新司法試験プレテストの感想

北海道大学法科大学院
2年課程(既習者コース)2年
望月宣武(もちづきひろむ)

2005年8月6日〜9日に実施された新司法試験プレテストについて,実際に受験した感想を速報でお届けしたいと思います。

主に,受験できなかった法科大学院生の皆さんに新司法試験のイメージをお伝えすることを目的としていますが,法科大学院を目指す方々にも,いつか受ける試験として参考になればと思います。

あくまでも筆者の個人的な主観的感想ですので,問題の難易度等についての記述は筆者自身の実力に大きく影響されています。ご了承下さい。

なお,プレテストの問題文は全て法務省から手に入ります

また,短答式の試験結果も法務省から手にはいるようになりました

1.短答式(8月6日9時30分〜17時)

9時30分,短答式民事系(民法,商法,民事訴訟法)

150分で74問(2点問題73問,4点問題1問の満点150点)です。1問あたりに使える時間は2分なので,悩んでいる暇は殆どありません。

細かい知識が多いなと感じました。商法は施行規則まで問われましたし。現行試験(民法のみ20問)と比べると,民法のレベルは下がっていると思いますが,3科目になった分,要求される全体としての知識量は相当増えていると思います。

5択問題と組み合わせ問題が半々くらいでしょうか。民法が36問,商法が19問,民訴が19問ですが,若干融合している問題もありました。

あと,会社更生手続について問うのは反則だと思います……。

13時15分,短答式公法系(憲法,行政法)

90分で40問(満点100点)という事前告知でしたが,実際のマークの数は95個。小問が3つある問題もあり,問題数が多すぎです。時間が足りないという声が周りから漏れていました。

連続した3〜5問の正誤問題が全て正解じゃないと配点がもらえないという形式の問題が半分以上で,10択問題とかもありました。幅広い知識よりも,正確な知識が問われているようです。

やっぱり組織法と地方自治法からも出題されました……。

判例中心の勉強,特に判旨の言い回しを読み込んでおくことが大事だと思います。

15時30分,短答式刑事系(刑法,刑事訴訟法)

90分で40問(満点100点)ですが,マークは82個。塗るだけで疲れます。

正誤系は,公法系でも出た全て正解じゃないと配点がもらえないという形式が9問,4肢択一・5肢択一や正誤組み合わせの形式が8問,正誤の個数を数える形式が7問。

そして,問題は,出ないと(勝手に)思っていたパズル系が16問……。現行試験よりは複雑ではありませんが,1問あたり2分で解かなければならないので,圧倒的に時間が足りません。

現行試験では憲法・民法で時間を節約して刑法に回すことができますが,新司法試験では刑事系で独立しているのでそういうことができません。問題の難易度云々よりも,このままでは時間が足りないことによって足切りされそうです。

追記

☆ 友人のサイトにも短答式の感想が出ています。 → iboxさんの感想

▽ 8月7日追加

「全て正解じゃないと配点がもらえないという形式」というのは本当にそうなのかわかりません。「1個間違えたら減点1,2個間違えたら減点2,3個間違えたら0点という形式」ではないか,という憶測も出ています。

9月に予定されている法務省の配点等の発表を見ないとわかりませんね。

▽ 9月24日追加

法務省発表の配点表によると,「全て正解じゃないと配点がもらえないという形式」というものの中には,公法系では「肢1個間違えても部分点1点もらえる」というものもありました。しかし,刑事系では部分点は一切ないようです。

2.論文式公法系(8月7日13時45分〜17時15分)

4時間(240分)で2問(各100点,満点200点)です。答案用紙は1問につきA4判8枚。

公法系科目ですが,融合は殆どしていませんでした。

第1問は憲法。小問が2問で問題文は3ページ,資料が3つ。私としては「何のためにこの資料は存在するの?」と理解できない資料もありました。

架空の法律の憲法上の問題点を論ずるというものですが,問題点はいくつもあります。その中で「憲法違反となる疑いがもっとも強いと考えるもの」について論ぜよとのこと。どれを選ぶかによって,その後の展開は全く変わります。13条か,21条か,22条か,35条か,などなど。

私が選んだ21条の論点は,オウム真理教解散命令事件(最決平8・1・30)を想起させるような問題でした。

第2問は行政法。小問が2問で問題文は10ページ。そのうち6ページは参照条文です。

小問(A)は行政法総論からの出題で,行為の法的性格を問うもの。問題文にヒントが多すぎて,本当にそれに乗っかっていいのか,かえって不安になりました。

小問(B)は救済法からの出題で,「どのような訴訟を提起することが考えられるか」という問題でした。ちなみに,何を選んだか5人に問うたら,私を含めて6人が全員違う訴訟を考えていました。そういう,いろいろ考えられる問題。

どちらの問題も正解はひとつという問題ではないと思います。そういう意味では現行試験とは全く傾向が違います。覚えたことを吐き出すのではなくて,その場で考える能力が問われる試験だと感じました。

しかし,4時間で16枚は辛いです。特に,午前に8枚書いた後なので,手が痙攣しそうになります。日々,腕の鍛錬が欠かせません。

書くことはいくらでもあるので,時間配分と内容の取捨選択も大事です。

追記

▽ 8月10日追加

第2問の素材となったのではないかという判例が見つかりました。執行停止申立て事件ですが,東京高決平16・3・30判例時報1862号151頁(原審横浜地決平16・3・22)の本案訴訟が素材になったのかも知れません。

なお,区立小学校の廃止条例の処分性を否定した原判決を是認した最判平14・4・25判例地方自治229号52頁(原審東京高判平8・11・27判例時報1594号19頁)も参照して下さい。

3.論文式民事系(8月8日11時30分〜17時30分)

6時間(360分)で2問(第1問200点,第2問100点,満点300点)です。答案用紙は第1問20枚,第2問10枚の合計A4判30枚……。

民事系科目ですが,融合は殆どしていませんでした。第1問〈問1〉が民法,〈問2〉が商法(会社法),第2問〈問1〉と〈問2〉が民事訴訟法でした。

11時30分から17時30分まで6時間連続試験。別に第1問〈問1〉で2時間,〈問2〉で2時間,第2問で2時間の試験にしてもいいのではないかと思いましたけど……。

問題文は第1問が8ページで資料が2つ,第2問が5ページで資料が1つ。思ったよりも少ないです。

第1問〈問1〉は損害賠償の法律構成を考えるもの。おおざっぱに言えば不法行為責任と契約責任(債務不履行)なんですが,論点は山ほどありました。しかも,詳細な事実関係が不明なので3つの想定される事実関係から構成せよ,というようにわざわざ書くことを増やしてくれていました。

10時間くらいくれたら,論点を全部拾って,しっかりと厚く論証し,事実関係も丁寧にあてはめて,20枚の答案用紙にきれいな字でびっしり埋めることができたでしょう。

私の現実は3時間使って,論点を落としまくり,論証を端折り,乱雑なあてはめをして,汚い字で10枚でした。

第1問〈問2〉は商法。予想に反して会社法分野からの出題でした。どうせ来年には使わない条文から出すわけないと勝手に思っていたのですが……。しかも,商法特例法の委員会等設置会社(ちなみに,新会社法では「委員会設置会社」と名称変更されます)でした。

設問は〈問1〉と関連しているようであまり関係なくて,会社の取締役・執行役に損害賠償を請求したいけど認められるか,というもの。これまた取締役・執行役が5人もいるので書くこと盛りだくさんです。

大きな論点はたぶん1個(商法で言えば266条ノ3)で,5人の責任につき,事案から丁寧に事実を拾ってあてはめることを要求されているのだと思います。

第2問は民事訴訟法から多数当事者訴訟。論点はただひとつ,補助参加の利益のみ。

〈問1〉は補助参加申出人の訴訟代理人弁護士として参加の理由を構成せよ,というもの。他方,〈問2〉は相手方の訴訟代理人弁護士として参加申出に対する異議を構成せよ,というもの。これは人格分裂を招きますね。

〈問2〉のほうは裁判例の抜粋があり,それを論拠にせよというヒント(?)まで付いていました。

両問とも,論点がひとつなので,事案から丁寧に事実を拾ってあてはめることを要求しているようです。

全体として,論点が少ない問題は「あてはめを丁寧に」という出題趣旨がはっきりと読み取れますが,論点が多いのに事実関係も複雑多様な問題は,どちらに力点を置いたらいいのか悩みます。

ただただ疲れました。6時間集中力を切らさないのは大変です。そして,おなかが空きます。ペットボトルにゼリーとかチョコレートとかカレーを入れて持ち込みたくなります。

というか,問題が融合しないなら,途中で休憩を入れてもいいのではないかと思います。

追記

☆ 友人のサイトにも感想が出ています。 → iboxさんの感想

▽ 8月10日追加

要件事実や執行法・保全法は,論文式では息を潜め,短答式のみにおいて問われることになったのでしょうか。

4.論文式刑事系(8月9日12時〜16時)

公法系と同じく,4時間(240分)で2問(各100点,満点200点)です。答案用紙は1問につきA4判8枚。刑法と刑事訴訟法が融合していないのは予想どおりです。

4日目の最後の4時間ということで,すでに息も絶え絶えになっており,集中力を維持できるかどうかが大事だと感じました。

第1問は刑法で,小問なし。「甲及び乙の刑事責任を論じなさい」という1問だけです。

捜査の端緒・経過の資料と,逮捕後の甲及び乙の供述要旨が添付されており,全部で5ページです。なお,問題文に「各供述要旨の内容は信用できるものとする」と付言されており,事実認定で悩まなくても良いようになっています。

各供述が相反していたりするとおもしろいのでしょうが,きっと時間が圧倒的に足りなくなると思います。

論点が盛りだくさんで,いろいろな犯罪の成否が問題になり,そのひとつひとつに共犯の論点(共犯と身分,共犯の錯誤等)が盛り込まれていました。

第2問は刑事訴訟法で,小問が3つ。捜査段階と公判廷の経過と被告人や証人の供述要旨が盛り込まれており,全部で4ページです。

〔設問1〕は被疑者勾留できるかどうか,手続要件(先行する現行犯逮捕の違法性等)と実体要件(勾留の理由及び必要性)を問うもの。

〔設問2〕は公判廷における伝聞供述の証拠能力,〔設問3〕は捜査段階の供述録取書の証拠能力について,「問題点を挙げて論じなさい」というものでした。

問題文は長いですが,問われていることは現行試験と変わらないように感じました。

追記

☆ 友人のサイトにも感想が載っています。 → iboxさんの感想

▽ 10月15日追加

第1問で「刑事責任を論ぜよ」という問い方に戸惑いましたが,刑事責任は罪責と同義と考えて良いようです。

5.論文式選択科目(8月7日9時30分〜12時30分)

選択科目全般

3時間(180分)で2問(各50点,満点100点)です。答案用紙は1問につきA4判4枚。

問題文の量は科目によってばらつきがあり,知的財産法・労働法・経済法・国際私法は2ページ,租税法は1ページ,倒産法は3ページ,国際公法は5ページ,環境法は9ページでした。

経済法

第1問は主に不公正な取引方法(独禁法19条)からの出題でした。探せば他にも論点がたくさんあり,私的独占(3条前段)や不当な取引制限(3条後段)も書けます。

昨年のサンプル問題のような,「そのものずばり」な過去の事例ではなくて,いくつかの過去の事例を組み合わせたような問題でした。

設問の問い方は「独禁法上どのような問題があるか」というオーソドックスなものです。

第2問は実質的には小問が2問の構成で,前半は企業結合規制(第4章)の中の営業譲受け(16条),後半は主に不公正な取引方法(19条)。後半は私的独占(3条前段)構成を考えた人もいたようです。

設問の問い方は「会社の法務担当者から相談を受けた弁護士の助言」という,新司法試験らしいものでした。

どちらの問題も論点がたくさんあり,全てを拾いきることは不可能だと思います。自分なりに拾った論点を関連させて構成し,時間内に4枚でまとめ上げる能力が問われると思います。

個人的には,答案用紙が各問4枚では足りないと感じました。公法系が4時間で各問8枚配られていることを考えると,余裕を持って多めに配って欲しいと思います。

高度で難解な論点ではなく,基本を問うもので,好印象でした。

追記

☆ 友人のサイトに労働法の感想が載っています。 → iboxさんの感想

▽ 8月8日追加

各科目の受験者数は知的財産法10名,労働法9名,倒産法11名,経済法8名,環境法4名,租税法・国際私法・国際公法0名でした。知的財産法と経済法が多いのは北大ならではだと思います。

6.総括

4日間で22時間30分。とにかく,この時間を体験できたのは良かったと思います。

そして,4日間でどれほど疲れるのか,よくわかりました。きっと,来年はもっと疲れるはずですが(より集中して,より多く書くはずなので)

自分の手に合ったペン,持ち込むドリンク,不規則になる昼食……そういう細かいところにも戦略が必要そうです。

短答式について感想を一言で言えば,「訓練が必要であり,訓練で克服できる」。これは現行試験と変わらないと思います。ただ,科目数自体が増えたので,必要な訓練量は相当増加したのではないでしょうか。

論文式については,3日間ずっと疑問でした。4時間なり6時間なり,続けることの意味は何なんでしょうか。どうして2時間の試験2〜3コマに分割できないのでしょうか。今回の出題を見る限り,分割しても構わないに感じました。

もうちょっと愚痴っぽいことも書きたくなりますが,疲れているので今日はここで止めておこうと思います。

一緒に受験した皆さん,本当にお疲れ様でした!


→ MH.net トップページ

Copyright (C) 2004-2005 MH.net